Saturday, February 14, 2026

The Living Daylights

 



写真家の池田晶紀さんと二人で「The Living Daylights」という名の展覧会を開催します。

私の新作は「間(AWAI)」と「浮世(UKIYO)」という名の大小の壁掛けのガラスの花器です。これは私が看取りの現場で使っている大切な道具である。

医師から最後のICが家族になされた後、その方が亡くなるまでの間ベッドの傍らの壁に花活けを行っています。もはや自身で寝返りを打つことも出来なくなった人達の視界は極端に制限されてしまう。ベッドに力なく横たえた状態でも目に入るように、ベッド脇の壁にガラスの花器を吊るして花を活けています。その時に私が使っているガラスの花器を展示します。

1860年にフロレンス・ナイチンゲールが記した「看護覚え書―看護であること看護でないこと」の中にこんな一節がある。

「老練の看護師あるいは永く病んでいる患者以外の人びとには、長期にわたってひとつ二つの部屋に閉じ込められ、毎日毎日、同じ壁と同じ天井と同じ周囲の風物とを眺めて暮らすことが、どんなに病人の神経を痛めつけるかは、ほとんど想像もつかないだろう。」

もっと必要なケアがあるから、私が死に逝く人々に花を活けていることを無駄なことだと言う人もいる。ただの壁が病人を追い詰めるという視点を多くの人が持つことは難しいことである。でも、ある医師が私にこう言った。

「無駄?その人はあなたをなじったつもりで褒め言葉だ。だって、あなたは誰かの記憶に残ろうとしてるんですよ。無駄な事しか人の記憶に残らないんですよ。」「周りの皆はあなたが花を飾りたいと思っているんだろう。でもそれは違う。あなたは患者に変化を与えたいと思っているんだ。だから、壁と花を結び付けたことは大変素晴らしい発明なんです。花が枯れることすら変化なんですよ。」と言って私を励ましてくれた。

この文章はVariety(変化)という章に収められている。ナイチンゲールとこの医師は同じことを言っているのだと思う。


もし誰も看取らなかったとしても、花だけはあなたの最期を見届けるだろう。私は人がお隠れになる時、こんな風にカーテンがひらりと舞い、舞台からするりとはけるのではないかと想像している。展示会場ではピンホールカメラで撮影した写真を展示します。



壁には沢山のガラスの花器が並び私と池田さんの二人で一緒に花活けをしますので、どうぞ私達のフラワーアレンジメントもお楽しみに。

「野暮な壁紙に吊るされたガラスの花器に一輪のアネモネ」を写真家の池田晶紀さんが撮影してくれました。そして、何故かメインビジュアルのグラフィックデザインを私の代わりに作って下さいました。デザイナーとしてはこそばゆい気持ちでいます。でも、アーティストとしては二人の科学反応を楽しんでいます。

「The Living Daylights」というタイトルは、キュレーションを担当してくれた澤隆志さんが名付けてくれました。きっと私一人では辿り着かなかったことでしょう。

精神科医の星野概念さんをお招きしてトークショーが開催されます。製作中に星野さんは答えのない私の看取りの現場の問いに静かに耳を傾けてくれました。今回再び対話出来ることをとても楽しみにしています。

そして、YUKAIの小林さんが作家もキュレーターもゲストもワガママ放題の曲者4人を温かく優しくまとめてくれました。



ガラスの花器はガラス工房「アトリエ炎」の柳建太郎さんが製作しています。ガラス工芸未経験の私にバーナーワークの手ほどきをしてくれたのですが、結局氏の超絶技巧を前にすべておまかせで私の看取りの道具立てが生まれました。今回はプロダクトとしての販売はありませんが、皆様のご希望があれば実現するかもしれません。そして氏を私に紹介してくれた大学院の指導教官である河西大介准教授とプロトタイピングに繰り返しお付き合い下さった近藤嘉男先生に感謝を申し上げたい。

私がモノづくりや表現の場に久しぶりに戻って来ることには、このように沢山の方のご尽力がありました。短い期間ではございますが足をお運び頂けたら幸いです。


The Living Daylights

日時:2025年3月6日(金)~3月8日(日)
              11:30-19:00
場所:神田ポート(千代田区神田錦町3-1神田ポートビル1F)
キュレーション:澤隆志
作家:澤辺由記子 池田晶紀



トークイベント
「わたしの覚え書」
精神科医の星野概念さんを交えたクロストーク

日時:2025年3月8日(日)13:30-15:30
料金:500円
登壇者:澤辺由記子 池田晶紀
ゲスト:星野概念
モデレーター:澤隆志

チケットはこちらの Peatix ページからお申し込みください。