Sunday, October 21, 2012

アカデミック・リンク/図書館から広がる新しい学び—千葉大学の取り組みに触れて

「アカデミック・リンク」

 それは決して目に見えません。 

あなたの知ってる言葉で言い換えると、「ひらめき」といえるのかもしれません。一見繋がっていないものを繋げることで新しい価値を見出した時、いつもの風景が全く違うものに見えてくる。そんな新しい視点の発見はあなたの世界を大きく変えます。

 人はそんな瞬間を求めて学び続けるのか、学び続けるとそんな瞬間に出会えるのか。「ひらめき」は学びの中に隠された喜びであり、あなたの「学びの道しるべ」になります。生涯学び続ける糸口を大学時代に見つけ出して欲しいと、私たちは願っています。 

テーマの異なる4つの棟(黙考する図書館/知識が眠る図書館/対話する図書館/研究・発信する図書館)を有する千葉大学附属図書館本館は、従来の静的な図書館と新しく生まれた動的な図書館がそれぞれ特徴を活かしたサービスを提供しながら、あなたの学びをサポートします。


「千葉大学附属図書館本館利用案内」より




 コペルくんへ

 「ニュートンの林檎の話は知ってるね?あの万有引力を発見したあれさ。ニュートンが偉かったのは重力と引力が同じものじゃないかと考えついただけじゃない。その思いつきからはじまって大変な努力をして実際にそれを確かめたことにあるんだよ。これが普通の人にはできないような難しいことだったんだ。でも最初の思いつきがなかったら、その研究もはじまらなかったのだからなかなか大変な思いつきじゃないか。偉大な思いつきというのは、案外簡単なとこにあるんだね。だから、あたりまえのことが曲者なんだよ。わかりきったことをどこまでも追いかけてゆくと、もう分かりきったことなんていってられないことにぶつかるんだよ。」

 おじさんより

「君たちはどう生きるか」吉野源三郎/岩波文庫より抜粋



かたらいの森には、目には見えない秘密の林檎の木がある。
それは見いだそうと追い求める者の前にしか現れない。

「アカデミック・リンク!」
ようこそ、「ひらめきの図書館」へ。

千葉大学附属図書館本館を再び訪ねて



リニューアルオープン後初めて、建築家の中山英之さんと一緒に「千葉大学附属図書館本館」を訪れました。大学図書館の設計に携わった経験のある中山さんに「嫉妬するほど素晴らしい図書館の運用」と言わせるほどに、新図書館(対話する図書館)と旧図書館(静かな図書館)を自由に行き来きしながら思い思いの学習に取り組む生徒達の姿は、図書館利用案内の冊子の制作を通して微力ながらもご協力させて頂いた私達の胸を打ちました。

オープンから半年、最も利用の多い日で約5000人とのことですから、図書館関係者の皆様の誇らしい顔は想像に難くないでしょう。利用案内の冊子も初版の1万部がたった1ヶ月で足りなくなってしまい、慌てて増刷したというエピソードも、いかに千葉大学附属図書館が大学内外から高い注目を集めているかを示しています。前述の「ACTIVE LEARNING WORKSHOP」の成果は言うまでもないでしょう。

最も注目すべき点は、対話する新しいスタイルの図書館を作ったことではありません。千葉大学の「アカデミック・リンク」という名の先見のある教育改革プロジェクトの存在です。その取り組みを学内に広げていくための最初の布石として図書館がオープンしたに過ぎないのです。上物を作って満足してしまうことの多い公共施設において、成し遂げたい計画やコンテンツに対して教育の現場にいらっしゃる先生方が大変熱心であることが、私達がこのお話をお引き受けするにあたってとても心を動かされたことでした。

中山さんの描いた想定図と実際の利用の様子を比べてみると、かなり完成度が高いので大変驚いてしまいました。建築図面と搬入家具などの資料を見ながら完成図を描くのは普通のイラストレーターには大変困難な作業ですが、そこは経験豊かな建築家ならではの職能ですね。

教育というものは、とてもロマンチックな仕事です。私達は先生方と一緒に生徒達の未来を眼差すことが出来たのでしょうか?そうであれば幸いです。千葉大学の「アカデミック・リンク」のこれからに、どうぞ皆様ご注目下さい。


千葉大学附属図書館館長・竹内比呂也先生と建築家・中山英之さん
新図書館(対話する図書館)と旧図書館(静かな図書館)の境界線上にて


千葉大学附属図書館本館利用案内



千葉大学附属図書館本館の新館のリニューアルオープンに合わせて利用案内の冊子の制作を担当いたしました。以前担当した伊東豊雄さんの設計した図書館のガイドブック「多摩美術大学図書館の利用のてびき」を気に入って下さってのご依頼でした。編集、イラストレーション、写真、デザインまで、印刷以外のほぼすべての工程を、前回同様に建築家の中山英之さんと私の二人で取り組みました。前回と大きく違うことは、今回の図書館の建築設計に中山さんは全く携わっていないということです。

旧図書館2棟に今回増築された新図書館2棟を合わせた4棟は、すべてテーマの異なる図書館となっています。従来の静かな旧図書館に対して、声を出して議論をしながら学習する「対話する図書館」が、新館のリニューアルの目玉となります。極めて特異なこの状況をどのように冊子に反映するかが、私達に課せられた最大のミッションでした。

図書館の位置関係と図書館の利用のルールの大きな違いを理屈抜きに知覚的に理解してもらうために、私達は少し大胆な造本設計を提案しました。

中とじ本文を左右均等に分け、両観音開きの表紙を折り込むことによって、右開きのページと左開きのページを作り出し、縦書きと横書きの二つのエディトリアルで、静かな旧図書館(縦書き)と対話する新図書館(横書き)を表現するというものでした。

これは旧図書館、新図書館それぞれのスタッフが各々納得のいく造本仕様だった様です。両者に大きくコントラストを付けながら、最終的にグラデーション豊かな一つの図書館が立ち上がる様に配慮しながら関係者一同、編集とデザインに取り組みました。


その編集会議は「ACTIVE LERANING WORKSHOP」と名付けられました。その由来は新図書館で推奨される対話する学びは、千葉大学内では「アクティブ・ラーニング」と呼ばれているからです。「どうしたら素敵な図書館利用案内が出来るのか」をテーマに議論を繰り広げながら、新しい学習の有用性を試してみようというものです。中山さんと私が朝から晩まで常駐し、仕事や授業の合間に自由に立ち寄り、壁に貼られたメモを読んだり、質問をしたり意見を言うことが出来る様にしました。そうやって連日に渡り白熱する議論が続きました。

さて、その成果はどうだったでしょうか?
その答えはオープンした図書館の見学を通してお伝えしたいと思います。